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「ゾロ、ゾロ!ちょっとこっちに来て!」 ナミの急かす声に背後を振り返ってみると、よく見知った金色の頭がテーブルに沈んでいた。 何があったのかと訝しみながら席を立つと、ナミの隣でロビンがサンジの肩に上着を掛ける。 自然と視線が流れて、時折不自然に上下する肩の動きに気づいた。 「こいつどうしちまったんだ?」 「彼、酔っちゃったみたいね」 「急に泣き出したかと思ったら、今度は寝ちゃったみたい」 ガラスコップの中身をカランと揺らしながら冷静にロビンが答えて、ナミがそれに続く形で細かい状況説明を付け加える。 華奢というわけではないのに細く見える肩を見下ろしながら、蜂蜜色の髪からそっと覗く耳が赤いところを見ると、本当に酔って泣いて眠ってしまったらしい。 「サンジ君ってお酒弱いの?」 「知らねぇ」 「知らないって…、あんた友達なんでしょ?」 あんたってほんと最低ね、と呆れかえったナミに、ゾロは何も言い返さなかった。 けれどサンジがお酒に強いか弱いかなんて、ゾロが知っている筈がない。 なんせこうして一緒に酒を飲む場にいること自体が初めての経験なのだから。 サンジがどんな風に酔うのかも、どんな酒が好きなのかも、ゾロは知らない。 「こうなっちまう前に、何かあったのか?」 「いいえ。とても大人しくお酒を飲んでいたと思うけれど」 ロビンの話によると、本当に一人で飲んで一人で酔って潰れてしまったらしい。 無類の女好きであるサンジが、外見だけは最高級のナミとロビンを前にして大人しかったというのが非常に不可解ではあるが、今はとにかくサンジを何とかしなければならない。 このままここにいる奴らにサンジの貴重な寝顔を晒す必要もないだろう。 サンジの肩に先ほど掛けられたロビンの上着を無言でつき返して、サンジの身体を椅子の上から器用に引っ張って自分の背中の上に乗せる。 上着を受け取ったロビンは少し頬を緩めてから、手際よくゾロの荷物とサンジの荷物を纏めた。 「わりぃ。先に帰る」 「おぶって連れて帰る気?あんた自分が迷子癖あるってこと忘れてんでしょ」 「うるせぇ、忘れてねえよ。こいつん家なら大丈夫だ、迷わねえ」 細い体から容易に想像できた軽さに眉を寄せ、力の抜けきった上半身を改めて担ぎ直した。 肩の上からサンジの両腕を回し、片腕で支えながらもう片方の手で二人分の荷物を持った。 くったりと凭れかかって来たサンジの頭がゾロの耳に触れて、ピアスが微かな音を立てる。 耳元で、落ち付いた静かな息遣いが聞こえる。 ゾロの突然のリタイアにウソップやルフィが批判の声を浴びせるが、ゾロは軽くいなして店を出た。 外は春の夜には少し寒く、背中のサンジが体温を求めてゾロにきゅっとくっついた。 普段は絶対にこんな素直な仕草なんて見せないし、どちらかというとゾロは睨まれてばかりだ。 (ちったあ素直になれよ、グル眉め) ゾロは背中のなかなか懐かない猫のような友人に向かって、密かに心の中で呟いた。 せっかく手懐けても一向に本心を見せる気配のない男が、そろそろ少し憎たらしくさえ思える。 サンジがせめてもう少しだけでも気持ちを見せてくれれば、ゾロだって確信を持って接することができるのに。 ゾロは薄々、サンジが自分のことを好きなのではないかと気付いていた。 普段はいっそ清々するほどの女好きで、視界に映った女には無駄に声を掛けて体をくにゃくにゃさせている。 それでも約二年サンジと過ごして、日々口喧嘩や馬鹿笑いを繰り返している内に知ってしまった。 自分がこの優男だけれど本当は男気に溢れた友人に、特別な感情を持っていることに。 そしてどうやらそれは、サンジも同じなのだということに。 けれどサンジは意地を張っているのかそれともいけないことだと思っているのか、このことを隠しておきたいらしい。 ふとした瞬間の視線や表情はまざまざと奴の本音を伝えているのに、肝心の態度と口が付いてこない。 そうなるとゾロだってさすがに自信もなくすし、手の出しようがない。 「お前ぇは、どうしてぇんだ」 誰もいない夜の道を一人歩きながら、今度は声に出して聞いてみる。 当の本人はゾロの背中で気持ちよさそうに眠っているのだから、もちろん返事なんてない。 しばらく歩いている内に、背中のサンジが少しずつずり落ちてきた。 いくら剣道で鍛えた腕だとは言え、自分と同じくらいの身長の男を、それも意識のないままおぶって歩くのはなかなか難しい。 よいしょ、と反動をつけながらサンジを抱え直す。 するとその振動で、サンジがくぐもった声と上げた。 「んむ……」 「起きたのか?」 もぞもぞとゾロの肩口にサンジのおでこが当たり、それまで垂れ下がっているだけだった細い二本の腕が、ゾロの首元で交差される。 「……おい」 「んー……、ぞろぉ?」 目蓋の上を擦りながら、寝惚けた声でサンジがゾロを呼ぶ。 この体勢だってゾロには辛いのに、そんな声を出されたらたまったもんじゃない。 起きたならさっさと背中から降りて自分で歩いて欲しいのが切実な本音だ。 しかしサンジはくったりとゾロに体重を預けたままで、覚醒し切っていないらしい。 もしもサンジが正気なら、ゾロに大人しく背負われたままでいるなんてことはあり得ない。 もちろんゾロはもっとずっとサンジに触れていたいし、こんなに近くで息遣いを感じられることなんて今までなかったから、この状況は非常に美味しいのだけれど。 「おれだって…りょうり、くらい…つくれる、もん…」 すん、と鼻を鳴らして、サンジがと頼りない声で呟いた。 驚いてぴたりと足を止めてサンジの様子を窺うけれど、背中のぬくもりは再び眠りに落ちたようだ。 「ああ、くそ…っ」 なんて、この気持ちはもどかしいのだろう。 できることならば背中越しなんかじゃなくて、真正面から見てやりたかった。 |